年明け一発目の(私の)記事として、「ABZÛ」について書いていこうと思います。
本作はPC及び海外ではPS4でもリリースされている、海洋アドベンチャー……と言っていいのか、海版Journey(風ノ旅ビト)のような作品。
Journeyに携わったメンバーが関わっていることから、作品の傾向としては同系統と言える本作。 やはり本作も美しく、テーマ性・メッセージ性のある作品になっていましたよ。
概要: 海を旅し、生命に触れ、秘密を探る。
雰囲気を掴むには、公式トレーラーが適当でしょう。
本作の舞台は海。 フォトリアル系ではなく、Journey譲りの個性的なアートスタイルで描き出されるキャラクターと世界は相変わらず美しく、本作に用意されたテーマやストーリーを十分に理解できなくとも、スイミング・ダイビングを楽しめる内容となっています。
操作も難しいことはなくシンプルで、謎解きも恐らく詰まることはないでしょう。 なにより、ゲームオーバーといったような要素もないため、万人が無理なくプレイ・クリアできる仕様になっています。
Good: 美しく、謎多き世界に浸ろう。
プレイを開始すると、プレイヤーの分身たる操作キャラクターが、水中に浮かんでいるところから始まります。
普通に考えると、いきなり海にひとり投げ出されているなんて、絶望しかないわけですが……本作のそれは不思議と絶望感とは縁遠い印象。 どこまでも青く広がる海は、恐ろしいという感情よりも美しいという感情を呼び起こします。
実のところ、本作は広大なフィールドを擁するオープンワールドゲームではないので、プレイ自体は短く、実際に行ける範囲も決して広いわけでもなく、リニアなデザインとなっていますが、それをしてマイナス評価になるわけではありません。 そこは問題ではないのです。
最初に指示されるままにプレイヤーは海へ潜ります。 潜ることに続いて泳ぐことを学び、あるいは、そこいらを泳ぐ生き物と一緒に泳ぐ方法をも教わるかもしれません。
そうして、少しずつ先へ進み、少しずつ本作の世界を旅する方法を学んでいきます。
そうして先へ進んでいくと、各エリアの終点には渦、あるいは、穴のようなものが。
こうして、各エリアを巡っていくうちに、本作に散りばめられた謎を知り、秘密を探っていくことになるのです。 美しいだけじゃない。 驚きもきっとそこにはある。
目的は?: 明示的に目的は指し示されない。 ゆえに、色々と想像・考察のしがいもある。
さて、ここまでで“できること”は多少伝わったかと思いますが、では、“すべきこと”はなんなのか? つまりは、目的は何なのか? という疑問が残るでしょう。
これについては、恐らく多くのプレイヤーがゲーム側から明示的に目的や動機といったものは指し示されないということは、知っておいたほうがいいかもしれません。
あらかじめ言っておくと、目的が明示されないからといって本作がつまらないものになっているわけではありません。 優れたアートスタイルと、素晴らしいサウンドトラックだけでも十分に楽しめるはずですから。
では、全くストーリーやバックボーンがないのかというと……そうでもないんです。
例えば、プレイヤーのお供をしてくれるマシンや、瞑想ができる石像もそうですが、以下のような“文明を感じさせる”ものが本作には登場します。
本作にはテキストや音声による情報は皆無(冒頭の操作説明くらいなもの)なので、こうした散在する情報・謎の断片から推測することでしか、状況や目的・動機といったものを推し量ることはできません。 プレイヤーの想像力に、大部分を委ねる描き方……とも言えるでしょう。
ただ、その前提というか手助けになりそうなネタというのが、割と難易度が高かったりするのが難点と言えば難点かもしれません。
ここで、本作のタイトルを思い出してみましょう。 ABZÛ……ABZÛとはなんぞや? 聞きなれない単語なのではないでしょうか。 少なくとも私は本作をプレイを通して知るまで、それがなんであるかを全く知りませんでした。
ABZÛ……アブズとは、シュメール神話において「生命の源たる深淵の淡水」のことなんだそうです。 と同時に、アッカド神話ではその淡水を司る神の名でもある、と。
この辺はこちらにて、詳しく考察・解説してくださっているんですが、要するに、シュメール・アッカド神話に着想を得ているのが本作、ということなんです。
そうして見ると、本作の各地で見られる文明の気配も、また一段と意味深いものに見えてきます。
しかし、ゲームでネタにされることの多いギリシャ神話や北欧神話といった神話に比べると、シュメール・アッカド神話の知名度やその知識の定着具合は確実にガックリと落ちるでしょう。 私もさっぱり詳しくないですし。
本作のタイトルを見て「あ! シュメール・アッカド神話ベースなんだ!」と即座にわかった人は、神話に造詣が深い人なのでしょうけれども、絶対数はとても少ないと思います。
じゃあ本作はそんな選ばれし者たちだけしか楽しめないかといえば、再三書いてきたように、「そんなことはない」という答えになります。
無論、前知識が不要で、普遍的なテーマ・メッセージ性を持っていたJourney(風ノ旅ビト)に比べると、本作のそれらは少々朧げでわかりにくいかもしれません。
ただ、件の神話に着想を得ているとはいっても、本作で描かれる事の顛末は、少々難解で曖昧に見えたとしても、本質は普遍的なものだと思うのです。 まぁ、ひととおりプレイした上だからこそ、そう言えるんですが。
なので、本作をプレイする際に元ネタのシュメール・アッカド神話について学習せずとも(私が楽しめたように)恐らく楽しめるでしょう。 その上で、それらの神話について学習したのであれば、更に深く噛みしめ、本作に思い巡らせることも可能となるでしょう。
お好みのスタイルでこの世界に触れ、味わい、考えて楽しめると思います。
Good: 音楽にも浸ろう。
本作のプレイ体験を良いものにしているのは、秀逸なアートスタイルだけではありません。 Journeyがそうであったように、楽曲がとても素晴らしいことも大きな要素です。
本作の作曲はこれまた再三書いてきたJourneyでも作曲を担当しているAustin Wintory氏。 件の作品とは趣は異なるものの、ゲームの状況に合わせた素晴らしい楽曲を本作にも提供しています。
時に荘厳に、時に暗く、時に躍動感を持って。 状況が変わっていくゲーム内容に合わせて、楽曲の方もダイナミックに変化をしていきます。
この部分に関しては文字では伝わらない部分ですし、さほど楽曲を重視しない人にもアピールポイントにはならないのでしょうが……もし感動的なサウンドトラックに浸れる感性を持っているのなら、本作の楽曲にも何かを見いだせるのではないかと思います。
Abzu
¥1,200(2021年1月25日 以降 - 追加情報商品価格と取扱状況は記載された日時の時点で正確で、また常に変動します。Amazon のサイトに表示された価格と取扱状況の情報は、この商品が購入されたその時のものが適用されます。)結論: 何かしら要素に惹かれたらレッツプレイ。
ということで、元ネタはニッチといえるレベルのものであるものの、楽しむことに関して言えば門戸は広く開かれている印象の本作。
惜しむらくは、未だに国内ではPS4などで購入が出来ない(PCはSteamからの購入・プレイが可能)こと……ですかね。 言語的要素が皆無なので、ローカライズに関しては特に費用が嵩むことはなさそうなのですが……単純に「売れない」と判断されているのかもしれません。
ともあれ、多少の困難を乗り越えてでもプレイする価値はあるかと思います。 もっとも、Journeyよりも人を選ぶ気もしないでもないですが。
ただ、楽しみ方はひとつではないので、本作を構成するいずれかの要素にピンときたのなら、手を伸ばしてみる価値はあるんじゃないかなと思います。 是非アブズに触れてみてください。
Abzu (輸入版:北米) - PS4
Amazon Auto Links: Could not resolve the given unit type, unknown. Please be sure to update the auto-insert definition if you have deleted the unit.